丸亀市在住の ソーダ水さん
「ねえ、ピザって10回言ってみて」
生まれてはじめて10回クイズを出されたら、人はどんな新鮮なリアクションをするのでしょう。どうしても知りたくなり、息子(五歳)で試してみました。
「なんで?」
私の奇妙なお願いに、小首をかしげる息子。なんでと訊かれても、説明したら台無しです。私は「いいから」とうながします。そういうゲームだからと。
すると、息子は「ふーん。ピザピザピザピザ・・・」と唱え始めました。さあどうなるか。
きっと「ひざ!」って言っちゃうんでしょうね。それから言い間違いに気づいて「…あっ!」となる。そんな息子を想像するだけで胸がキュンとします。
「・・・ピザピザ!」
唱え終わったようです。「じゃあここは?」私は自分のひじを指差して尋ねました。「ここは何でしょう!はい、答えて!」すると息子は、こう言ったのです。
「ほね」
それから数日後、私はスマホのメモ帳アプリをひらいて、検証結果を振り返っていました。『五歳児に10回クイズは通用しなかった。まさかの骨だった』 思い出し笑いをして、自転車に足をかけます。向かう先は保育園です。
保育園につくと、20分前に送った娘(二歳)が教室で遊んでいるのが見えました。おともだちの胸のあたりにプリントされたイラストをさわって「くましゃん、くまー」と言っています。
私は娘に見つからないよう、忍者のように隠れながら、忘れて取りに帰ったおむつをカバンから出し、棚に補充します。おむつを忘れるのは今月で二回目です。ちなみに、よだれかけも二回忘れています。
『またおむつを忘れてしまった。でも娘がたのしそうに過ごしているのを見られたのは良かった』 メモ帳に記入。スマホをポケットに入れて、自転車をこぎだします。急がないと仕事に遅刻してしまいます。
三年ほど前から、スマホのメモ帳アプリを使って、育児の記録をつけています。きっかけとなったのは「46歳で父になった社会学者」という本を読んだこと。著者が育児記録を書いて製本するエピソードがあり、すてきな取り組みだなと感動して、真似をするようになりました。
私はずぼらなので、書かない日のほうが多いのですが、それでも長く続けていると、それなりの量になっていて驚きます。たまに読み返すと、日常のささいな記憶が、脳裏に蘇ってきます。
娘が一歳のころ、「MAX!MAX!」と言っていて、なにがマックスなのだろうと思い、見てみると、手にマスクを持っていたこと。
「丸亀市には大人と子ども合わせて何人いるでしょう?」と息子にクイズを出したとき、10万人もいるんだぞと驚かそうと思ったら、「わかんない。5兆?」と上を行かれて、何も言えなくなったこと。
マルタスの近くの芝生広場を通った秋。刈られてしまったのか、群生していたたんぽぽが居なくなったのを見て、息子が「花ばたけが…。草ばたけになっちゃった…」とつぶやいたこと。
どれもかけがえのない思い出です。そして、備忘録として書き始めた育児記録は、次第にそれを書くこと自体に喜びを感じるようにもなっていきました。
育児記録を書いている時間は、あわただしく通りすぎる日々のなかから、子育ての喜びを掬い取っているような感覚があります。私はこの時間が好きです。たまらなく贅沢だと思います。「ひじじゃなくて、骨だったんだよ」妻に話すと、喜びはさらに倍になります。
これからも、子どもたちの「はじめての○○」にたくさん立ち会えることでしょう。きっと私は育児記録に書いて残します。何が残るのか。たのしみでなりません。